今回は「ひらく漢字」について解説します。
漢字の使い方ひとつで、文章の読み味は大きく変わります。読者から見てわかりやすい、良い文章を書いていくためにも、漢字の「ひらき」に関する基礎は押さえておきましょう。
漢字をひらくとは?
漢字で書ける言葉を、あえてひらがなで表記することを「漢字をひらく」といいます。反対に、あえて漢字で表記することを「とじる」ともいいます。
Webメディアや雑誌、新聞などの情報媒体では、漢字のひらき方が慣習的にルール化されていますから、執筆の仕事にたずさわる場合は「ひらく漢字」を押さえておきましょう。
漢字がひらかれた文章と、ひらかれていない文章では、下記のように大きく印象が変わります。
- 漢字がひらかれていない文章
-
「随分待たせたけれど、二人の事を両親に話そうと思う。結婚する上で、極めて大切な事だからね」
- 漢字がひらかれた文章
-
「ずいぶん待たせたけれど、二人のことを両親に話そうと思う。結婚するうえで、きわめて大切なことだからね」
どちらが正解というわけではなく、そのメディアの伝えたい印象や、読者層によっても「ひらく or とじる」のジャッジが変わってきます。
もっとも大切なのは、記事単位、メディア単位で「表記ゆれ」を避けること。その言葉をひらくならひらく。とじるならとじるで、少なくとも記事内では統一するようにしてください。
漢字をひらく理由
漢字をひらく理由は、おもに下記2点に集約されます。
- 読者がすらすらと読みやすい文章にするため
- 文章の意図を正しく伝えるため
あまりに漢字が多すぎると、文章の全体的な見栄えが黒くなって圧迫感を覚えます。
また言葉によっては、表記の仕方で自然と意図を伝え分ける場合もあります。下記のような例ですね。
- “時”がきた:特定の「時世」の意味
- あの”とき”は:あいまいな「時期」の意味
読者にわかりやすく伝えるために、適度に、適切に漢字をひらいていきましょう。
ひらく漢字一覧
一般的にひらく漢字をご紹介していきます。
ただし「漢字のひらき」に明確なルールはなく、あくまで慣習的に定められているにすぎません。重厚なイメージを出したいメディアでは、一般的にはひらく言葉を、あえて漢字で記載することもあります。
まずはそのメディアの表記ルールを優先して、特にルールが定められていない言葉は、慣習に従って表記しておくと良いでしょう。
漢字をひらく形式名詞一覧
基本的に、文中で使用する形式名詞はすべて「ひらく」と覚えておきましょう。
形式名詞とは「事(こと)」「物(もの)」など、概念的にモノゴトを指し示す言葉です。
漢字で表記した場合 | ひらいて表記した場合 |
---|---|
その上で | そのうえで |
その事は | そのことは |
その人は | そのひとは |
〜した所 | 〜したところ |
そうする物だ | そうするものだ |
その時は | そのときは |
ただし、あくまで「形式名詞」として使われている漢字をひらくのであって、すべての「上」「事」「人」などをひらいて表記するわけではありません。
例えば「本の上」など、物理的な位置や状態を示す「上」は、一般的にひらきません。「そのうえで」など概念的な「うえ」を示す「形式名詞」をひらく、と覚えておきましょう。
この棲み分けの理解が難しい場合は、下記の記事で「形式名詞」についておさらいしておいてください。
漢字をひらく接続詞一覧
文中で「接続詞」として使う漢字も、一般的にすべてひらきます。
漢字で表記した場合 | ひらいて表記した場合 |
---|---|
但し | ただし |
尚且つ | なおかつ |
或いは | あるいは |
従って | したがって |
又は | または |
及び | および |
重厚な雰囲気を出したいニュースメディアなどでは、あえて漢字で記載する場合もあります。
しかし特別に事情がない場合は、ひらいて表記すると良いでしょう。
漢字をひらく補助動詞一覧
文中で使用する「補助動詞」も、一般的にすべてひらきます。
補助動詞とは、動詞をサポートするように使う言葉のこと。あまり馴染みがない言葉だと思いますので、一つの言葉を「本動詞」と「補助動詞」で使い分ける例をもとに、漢字のひらきを紹介します。
漢字で表記した場合 | ひらく場合とひらかない場合の使い分け |
---|---|
頂く | よくしていただく(補助動詞) プレゼントを頂く(本動詞) |
行く | うまくいく(補助動詞) 会社へ行く(本動詞) |
置く | よく聞いておく(補助動詞) 荷物を置く(本動詞) |
下さい | 歩いてください(補助動詞) サインを下さい(本動詞) |
見る | 空を眺めてみる(補助動詞) 空を見る(本動詞) |
来た | 行ってきた(補助動詞) 家に来た(本動詞) |
出す | 動きだす(補助動詞) 荷物を外に出す(本動詞) |
動詞と補助動詞の使い分けをわかりやすく意味もありますから、補助動詞はひらくようにしておきましょう。
漢字をひらく副詞一覧
文中で使用する「副詞」も、基本的にはすべてひらきます。(※一部例外があります)
副詞とは、用言(動詞・形容詞・形容動詞)を修飾するために用いられる言葉です。
漢字で表記した場合 | ひらいて表記した場合 |
---|---|
「大層」苦労した | たいそう苦労した |
「大変」恐縮ですが | たいへん恐縮ですが |
「殊更」暑い | ことさら暑い |
「既に」お伝えしたとおり | すでにお伝えしたとおり |
「是非」お願いします | ぜひお願いします |
「暫く」会っていない | しばらく会っていない |
「随分」と成長した | ずいぶんと成長した |
これらの漢字をひらくのは、あくまで「副詞」として使う場合です。
例えば「大変だ」「例えを出す」など、動詞や名詞などとして言葉を使う場合は、漢字で表記するのが一般的だと覚えておいてください。
また同じ副詞でも、下記の言葉はひらかないのが一般的です。
- 少々
- 多分
- 決して
- 一段と
- 結構
例外があって少々むずかしいのですが、慣習ルールということで押さえておきましょう。
漢字をひらく連体詞一覧
文中で使用する連体詞には、一部だけ慣習的にひらく言葉があります。
連体詞とは、体言である「名詞」を修飾する(より詳しく説明する)ために用いられる言葉です。
漢字で表記した場合 | ひらいて表記した場合 |
---|---|
所謂 | いわゆる |
此の | この |
大した | たいした |
来たる | きたる |
ただし連体詞は、メディアによってひらくか否かの取り扱いが変わりやすい言葉でもあります。よく確認して、その媒体の表記ルールに合わせるようにしてください。
まとめ
漢字の「ひらく・とじる」は、読み味にも大きく影響します。慣習ルールは押さえておきましょう。
しかし今回取り上げた言葉以外でも、漢字ばかりが続きすぎている箇所ではあえて「ひらく」こともありますし、明確なルールで縛るのが難しい概念でもあります。
「読みやすさ」「わかりやすさ」「ブランディング」を加味しながら、上手に漢字を使っていきましょう。